英語のパターンプラクティスについて

英語のパターンプラクティスについて

去年、「英語のハノン 初級」をやってみて、瞬間英作文よりパターンプラクティスが自分にはあっていそうだと感じました。 改めてパターンプラクティスについてまとめてみます。自分の個人的な事情がかなり混ざってます。

目次

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パターンプラクティスとは?

以下のように、文を少しずつ変化させながら反復練習する学習法です。

I work in an office.
↓ Question
Do you work in an office?
↓ She
Does she work in an office?
↓ Yesterday
Did she work in an office yesterday?

瞬間英作文との違い

瞬間英作文とは?

瞬間英作文は 英語上達完全マップ(← クリックすると瞬間英作文の解説ページに移動します)で提案されて知られるようになった、「話せるようになるための」訓練法です。今では広く知られるようになりました。

瞬間英作文が苦手な理由

まず前提ですが、 私の中では「瞬間英文」であって「瞬間英文」ではないです。

❌️ 日本語 → 英語
✅️ 日本語 → 言いたいことのイメージ → 英語

日本語を英訳するのではなく、日本語からまず言いたいことのイメージを頭の中に作り、その「言いたいこと」を瞬間的に英語にする練習です。

この「言いたいことのイメージ」を作るのが苦手なんです。これを瞬間的にできている気がしないですし、どうしても日本語にひきずられている感じがします。

❌️ 私は今日の朝に公園でジョギングをしました。
✅️ 私、ジョギングしたんです、公園で、今日の朝に。

というように、英語の語順で日本語を書いてくれたら、英訳するにしても英語の語順に慣れるのでまだマシなんですが・・・。 日本語って英語みたいに語順に厳格じゃないので、スラッシュリーディング1が長文読解に有効なように、それを活かしたらいいのにと思います。

対してパターンプラクティスは日本語が介在しないので、英語を英語のまま理解して、英語で反応する練習になります。

理論的背景

パターンプラクティスは理論的背景があってグローバルに活用されていた手法2です。対して瞬間英作文は日本人の英語教室講師が実践に基づいて提唱したもので、明示的に理論背景を提示しているわけではないようです(理論に従っていたら正しくて効果的というわけではないです)。

外国語習得法の歴史については、以下の過去記事をご覧ください。

外国語習得法の歴史から、良いとこ取りを考える

外国語習得法の歴史から、良いとこ取りを考える

自分は英語学習にイマージョンラーニングを取り入れています。また、去年「英語のハノン 初級」をやってみて、瞬間英作文よりパターンプラクティスが自分にはあっていそうだと感じました。 そこで改めて、語学教授法の歴史を振り返り、各教授法の特徴を比較・考察してみます。 教授法というのは教師が生徒に言語を教えるための方法論ですが、

パターンプラクティスは「古典的」な教授法です。何の効果があって、何が問題だったのかある程度明らかになっています。 正しい文法を無意識に使えるようにする効果は見込めそうです。 ただし それだけでは話せるようにならない という批判から、その後に廃れていきました。

一方、(世界に似たような研究はありそうですが)瞬間英作文は21世紀になって日本で流行った独自の方法です。個人の経験ではなく、英語講師が(他の訓練と組み合わせて)複数人に効果があることを確認している方法ではあります。 瞬間英作文に対して一番多い批判は「日本語を英語に翻訳する練習をしても話す練習にならない」というものです。英語を話す時に

  • ❌️ 言いたいこと → 日本語 → 英語

というように間に日本語を挟んでいたのでは、流暢に話せるようにはならないからです。

特に理論的背景を提示しているわけではないようだと書きました3が、

  • ✅️ 日本語 → 言いたいことのイメージ → 英語

というように先に「言いたいことのイメージ」を作るのであれば、スピーチ・プロダクション・モデルという、発話産出についての心理言語学のモデルに合致したやり方になります。

スピーチ・プロダクション・モデル(speech production model)とは、「何を話そうか」という(まだ特定の言語になっていない)抽象的な思考を抱いてから、それを実際に口を動かして音としての言葉として発するまでの過程を説明したものです。有名なのはウィレム・レヴェルト(Willem Levelt)が提唱したモデルです4

Mermaid diagram

ではこの練習をする時に「概念化」をどうするか?です。

英会話教室なら、コミュニカティブ・アプローチのように他の人と意図のやり取りをする状況を用意するのがその一つの方法です。 独学でやる教材を作るとすると、母国語を一切使わないアプローチなら絵を使ったり動画を使ったりなどが考えられます。しかしそれだと絵や動画で表せることに限られてしまいますし5、練習問題を作るのが大変です。

瞬間英作文は独学でこの練習をするのに、お手軽で便利な方法なんですね。

パターンプラクティスとしても、「言いたいこと」として言うように意識することでスピーチ・プロダクション・モデルに沿った練習ができ、過去に批判された「機械的で受動的な練習になりがちで、自分から言いたいことを生成するプロセスが欠落しやすい」という欠点をある程度補えると思います。

独学でのパターンプラクティスは中級以上向け

今の自分の意見では、最初はインプット中心、徐々に真似をして口に出す練習を増やしていき、パターンプラクティスや瞬間英作文で文法の自動化を目指すのは中級以上になってからで良いと思っています。

まとめて「アウトプット」と括られてしまいますが、アウトプットには大きく3つの段階があると考えます。インプットも含めると以下です。

  1. インプット
  2. シャドーイングやリピーティングなど、聞いたものを真似して口に出す(英文があれば、それを英語の音として口に出せる)
  3. 言いたいことを口に出す(言いたいことを英語にできる)
  4. 実際の会話で使う(英語でコミュニケーションできる)

1 はリスニング力を高めるためのインプット強化の側面もかなり強いです。特にシャドーイングはそうです。

ここでのパターンプラクティスや瞬間英作文は 2 の段階の訓練法です。

英語学習に限らず、大抵の物事はこんなに綺麗に区切って段階的に進めた方が良いわけではないです。しかし少なくとも量としては、初級ほど前半が多く、レベルが上がるに従って後半を増やしていった方が良いと思います6

もし中級より前の段階から文を作る練習をしたいのなら、パターンプラクティスよりも瞬間英作文の方がレベルが低くても開始しやすいと思います。 パターンプラクティスには易しい教材がないので・・・。

瞬間英作文との共通点

瞬間英作文もパターンプラクティスも、反復練習で考えなくてもできる自動化を目指す点では共通しています。 語彙や表現を自動化するのにも使えますが、特に文法を自動化するのに効果的な点も同じです。

パターンプラクティスのデメリットと対策

  1. 教材を作るのが瞬間英作文よりも難しく、選択肢が少ない
  2. 機械的な反復練習なので飽きやすい
  3. 無味乾燥な例文を単に機械的にパターン変化させていくだけだと、実際の会話で使うイメージが湧きにくい

1 については後述します。

2 については、瞬間英作文も同様です。これをメインの学習に据えるのではなく、1日の学習時間の中で10〜15分など、短時間を毎日やるのが良いと思います。

3 については、「実際にこれを言いたい気になって言う」というやり方をすべきだと思います。単に機械的にパターンを置き換えた正解を言うのではなく、それを言いたい伝えたいという気持ちで口に出すと効果が上がるはずです。

とはいえ最初は無理だろうと思います。しかし自動化してくれば段々意識しないで使えるようになるわけですから、むしろ言いたい伝えたいという気持ちで言える余裕ができるまで続けるのが目標になるのではないでしょうか。

独学教材

元々、パターンプラクティスについては知っていました。 ただ次に説明する「先生に習う」タイプのコースしか存在しないと思っていたんです。 なので「英語のハノン」の存在を知った時に驚きました。独学できる教材が出てきたのだと。

とはいえ、独学できる教材は少なくて、自分が知っている範囲では以下の2つだけです。 瞬間英作文に比べて、パターンプラクティスの教材を作るのは難しいのだと思います。

教材名概算価格形式特徴
英語のハノン約2,000円/冊書籍+音声ダウンロード圧倒的コスパ。
パタプラ約50,000円〜/アプリ買い切りアプリビジネス特化。復習アルゴリズムが優秀。

英語のハノンのコスパに驚愕します。自分のレベルに合わせて順に買っていけばいいですし。初級だけでも真面目に身につくまで何周かしたら1年はかかりそうですし。 人気教材になったので「初級」「中級」「上級」「フレーズ編」「ロジック編」「フレーズ編 Life goes on!」と種類が追加されていっています。フレーズ編第2段の Life goes on! は先月末に出たばかりです。今後もまだ増えるかもしれません。

自分はまだ初級しか買っていませんが、フレーズ編のレビューを見ると、意味のあるダイアログでのロールプレイ練習も取り入れているようです。

一方でパタプラ イングリッシュは高価に思えますが、オンライン英会話のコースを受けるよりは(ちゃんと身につくまでやるなら)トータルで安く済むでしょう。アプリで1日15分とか手間なく手軽にやれそうです。エンジニアで英語学習に取り入れている人の記事をたまに見かけますが、特にビジネスで実際に英会話が必要な方に好評のようです。私もビジネスで実際に英語が突然必要になったら、パタプラをやると思います。

60日間のお試しができます。しかし「パタプラ句動詞&スモールトーク」「パタプラ会議&ファシリテーション」「パタプラ口語表現」と他にも同額程度の教材があり、全部買うと大変なことに・・・。

英語のハノンを発売日順に並べると以下になります。クリックすると Amazon の商品ページに飛びます。

やる順番は 初級 → フレーズ編 → フレーズ編(Life goes on) → 中級 → 上級 → ロジック編 の順番が良さそうに思えます。

ただ私は中級以上はたぶんやらないと思います。フレーズ編もやらず、イマージョンラーニングで何度も Passive Listening 7 した題材でフレーズの練習をやりそうな気がします。

先生に習う

元々パターンプラクティスは教師が介在する教授法です。

有名なのは

  • カラン・メソッド(イギリス英語)
  • DME メソッド(アメリカ英語、カラン・メソッドより新しく、発展系の位置づけ)

でしょうか。 これらのカリキュラムは初級者からでも始められるように設計されています。

カラン・メソッドは幾つかのオンライン英会話スクールで提供されています。 DME メソッドは提供しているところが2026年1月時点で2つしか見つかりません。イングリッシュベルiTalk English が提供しています。

パターンプラクティスを続けるコツ

パターンプラクティスの欠点は退屈なことです。短期で叩き込むのが必要な必死な状況でない限り、無理して長時間やらずに継続が苦じゃない範囲で毎日続けるのが良いと思います。

英語のハノンの著者も長時間やらずに1日1ドリルを毎日続けるようにと言っています。

その主張は書籍名にも現れています。「ハノン」はピアノの定番基礎練習本です。指のメカニカルな動きを身につけるための(超つまらない)超基礎練習としてウォームアップ的に最初にやり、その後に練習曲8、課題曲をやるのがよくある練習サイクルです。

個人的な要望

「英語のハノン 初級」は優れた教材ですが、初級とか言いながら全然初級者向けじゃなくて、中級以上の人向けです。 ターゲットは「TOEIC の点は十分高いのに話せない人」なんでしょう。

自分は中級者だと思うんですが、ついてはいけます。レベルが合っていないとは思いません。でも中級であっても、もっと簡単なところから始めたいと思っています。

楽器の練習でもそうですが、基本的に練習というのは意識を1つのことに向けた方が効果的です9。複数のことを組み合わせる場合も、その「組み合わせること」に意識を向けます。組み合わせる各要素はさほど意識を向けなくてもできるようにしておきます。

なので文法の練習をする最初の段階では、そのターゲットにしている文法以外のこと・・・語彙のこととか、長い文を脳に記憶する苦労は邪魔になります。 それらは簡単な文でその文法をある程度身に着けた後に発展としてやるべきじゃないでしょうか。

なんというか、「これをやるだけで」みたいな一石二鳥三鳥を狙った教材に思えます。これをやるだけである程度語彙やチャンクも覚えられるとか、わざと途中で少し長い文を入れたりして、脳に英語を短期記憶させる能力を上げるようメリハリをつけてるように思われます10。が、自分はそういった幾つかの要素を組み合わせることに意識を向けて練習するのは、それぞれ単体がある程度できるようになった後がいいです。

教材は変化しないので、何周もしたら内容を覚えてしまいます。 内容を覚えてしまったのではパターンプラクティスの効果が弱まりそうです11。 それよりは同じ文法項目を、まずはもっと簡単な文で身につける。次に同じ文法項目をもうちょっと難しい文で身につける。という風に段階的にレベルアップできる方が嬉しいです。

使われている語彙や文法が Duo Basic くらいの、中学レベルの「英語のハノン 超基礎編」が欲しいです。 自分にとっては「英語のハノン 初級」は、ハノンというより練習曲に近いんですよね・・・。

Basic Grammar in Use のパターンプラクティス教材があったら、泣いて喜ぶんですが・・・。

パターンプラクティスは必要か?

必ずしも必要だとは思いません。パターンプラクティスにせよ、瞬間英作文にせよ、それらをやらなくても話せるようになる人はいます。 下記の 1 と 3 をやっていれば、2 は自然にできるようになる人もいるわけです。

  1. シャドーイングやリピーティングなど、聞いたものを真似して口に出す(英文があれば、それを英語の音として口に出せる)
  2. 言いたいことを口に出す(言いたいことを英語にできる)
  3. 実際の会話で使う(英語でコミュニケーションできる)

ただし文法を無意識に使えるようにするための効果的な訓練法ではあると思いますし、苦手な文法の抜け漏れも防げます12。やることで習得が早まる可能性は十分ありそうです。

また日本人はシャイなので、(私もそうですが)実際の会話の前にある程度言いたいことを言えるようになっておきたい人も多いでしょう。そういう人には 2 の訓練法として有効だと思います。

日本人にとっての英語は全てにおいて遠い言語です。特に音が難関だと思うものの、文法も相応に難関13です。 世界の第二言語習得方法の中心からは外れてしまったとはいえ、日本人が英語を話せるようになるためという条件では、パターンプラクティスや瞬間英作文は他の方法と組み合わせる補助として役に立ちそうに思われます。

私もメインの学習法にするつもりはなく、あくまで補助的に必要と思ったタイミングでのみ利用するつもりです。

まとめ

パターンプラクティスは、頭でわかっている文法やチャンクを「無意識に使える状態」にするための強力な訓練法です。

  • パターンプラクティスの利点: 日本語を介さず、英語の語順や構造をそのまま脳に定着させられる。
  • 教材選びの注意点: 『英語のハノン 初級』であっても、実際には中級者以上のレベルが要求される。
  • 継続のコツ: 1日15分程度の「短時間の習慣化」が挫折を防ぐ鍵。

瞬間英作文がしっくりこなかった、日本語の介在が邪魔と思う方は、パターンプラクティスを試してみてはどうでしょうか。まずは『英語のハノン 初級』を1日1ドリル、他の方法をやる前にウォームアップとして取り入れることから始めてみては?

Footnotes

  1. サイト・トランスレーションやチャンクリーディングとも呼ばれます。

  2. 構造主義・行動主義に基づくオーディオリンガル・メソッドという教授法の中核的な技法として、特に1950〜60年代に世界的に使われていました。

  3. 英語上達完全マップの瞬間英作文の解説 には、「まず言いたいことのイメージを作る」という説明はありません。

  4. 英語で”speech production model”を検索すると、色々なもっと複雑なモデルが沢山見つかります。

  5. 抽象的な概念や複雑な内容は絵や動画で表現しにくいです。

  6. 「最初はインプットだけでアウトプットはいらない」という意見と、「初日から会話も始めるべきだ」という意見とに、真っ二つに分かれている印象です。また歴史的にはパターンプラクティスは初級者向けにも多用されてきました。

  7. 隙間時間での「ながら聞き」のことです。ただしリスニングは集中して聞かないと効果が薄いので、私はリスニングに意識を向けて、ながらでやる作業の方にはあまり意識を向けないようにしています。

  8. 身につけるべき技術を曲の中で練習できるようにという意図で作られた曲

  9. 専門でない自分でも心理学の考え方に「注意資源の有限性」があるのは知っています。言語習得に関する研究でも、ピーター・スキーハン(Peter Skehan)の「注意容量制限モデル(Limited Attentional Capacity Model)」というのがあるそうです。

  10. スキーハンの主張とは逆に、ピーター・ロビンソン(Peter Robinson)の「認知仮説(Cognition Hypothesis)」というのがあり、あえて負荷をかけたほうが言語発達が促されると主張しています。正直、どっちの側面もありそうに思えますが、最初は「注意容量制限モデル」で、その後に「認知仮説」で練習したいです。

  11. 特定の学習データに対して過度に慣れてしまうと、AI の学習でも「過学習」というのが発生します。学習につかったデータに対しては精度が上がっていくけれど、未知のものに対しての精度は逆に落ちていくという現象です。

  12. ある程度話せるようになってから、抜け漏れがないか確認に利用し、苦手なところだけ練習するという活用の仕方も考えられます。

  13. ヨーロッパ系の言語の中ではかなりシンプルですが、日本語と語順からして全然違っていて苦労するのは確かです。